クラシカルギターコンクール本選レポート(ひとり言 其の七百十)

2019年5月5日

志田ギター教室第49回発表会に続き、5月3日に行われた第50回クラシカルギターコンクールも終わり、GWのイベントもひと段落です。
各演奏者への個人的感想をまとめてみました。
ちょっと厳しい見方をしているところもありますが、それは演奏者への期待と思っていただければ幸いです。


第50回クラシカルギターコンクールは一人の棄権もなく、27名の第2次予選出場者から6名が本選に選出。
本選の課題曲は、リュート組曲第2番BWV997よりフーガ(バッハ)です。
演奏順に紹介します。

トップで演奏した大塚勇馬さんは、フーガの出だしを丁寧なクレッシェンドで紡ぎ、スタッカートの使い方やテーマの強調など頭脳的に構築されたバッハを聴かせてくれた。自由曲の『内なる想い』ではピアノのような甘い音色が随所に見られ、音量のコントロールも素晴らしい。欲を言えば、もう少し勇気を出してハジけた表現も目指して欲しいところだが、ミスらしいミスもなく安定した演奏で安心して聴くことができた。(第2位)

次の赤井俊亮さんは、杉ギター独特の音色で骨太な演奏。体を大きく揺らしながら自分の音楽へ入り込む。この演奏スタイルの危険なところは、その気になってしまうこと。自分では大きな表現力で弾いているつもりでも、実は意外と単調になっていることが多い。自分の演奏を録音して客観的に聞くことをすすめる。自由曲の『カヴァティーナ組曲』では、pの甘い音やfの激しい音など音色の使い方がうまい。速いパッセージを最後までしっかり弾ききるように心がけるともっと良いと思う。(第6位)

前半最後の田中春彦さんは、声部の弾き分けが素晴らしく立体的なフーガを聴かせてくれた。それだけに弾き直しのミスはとても残念。少し焦りもあったようだが、自由曲の『セゴビアの名によるトナディーリャ、世紀を渡る変奏曲』では落ち着きを取り戻し本来の力を発揮していた。くぐもったベース音は弦がバテてしまったのか、高音が美しく伸びていただけに、スッキリした低音も聴きたかった。ミスさえなければもっと上位に入れる実力を感じた。(第5位)

後半最初の藤原盛企さんのフーガは、いわゆるバッハらしいバッハではなく独特の歌いまわし。演歌の後打ちに似たアゴーギクで粘りっこい。しかし、それが何とも言えない旨味になって嫌味にならないのは、進むときには躊躇なくサッと弾き切るなど、絶妙なバランスが取れているからだと思う。自由曲『ソナタOp.47』では、効果音にさえも音色や音量への工夫がありよく考えられていた。繊細な表現は申し分ないので、より大胆な演奏を期待したい。(第3位)

次の山口莉奈さんは本選ただ一人の女性。「母なる大地」とも言うべき堂々たる演奏。フーガでは少し硬くなっていたようだが、自由曲『ソナタ〜I、Ⅱ、Ⅳ』では持ち味を存分に発揮し見事に弾き切った。太くズンと響く低音、素直で伸びやかな高音、彼女の演奏には大地や大空のような豊かな大自然が感じられる。予選・本選ともに1位の完全制覇。(第1位)

最後の飯田敏史さんのフーガは原曲をとても大事にしていることが伝わる。カポタストやカンパネラ奏法を取り入れ、装飾音への工夫も感じられた。これだけのこだわりを持っているのだから、それを活かすためにも曲の完成度があともう少し高ければと歯がゆい。自由曲の『劇的幻想曲Op.31、舞踏の旋回〜Ⅱ、Ⅲ』は、曲が進むにつれノリが良くなり自由に表現が出来ていた。細めの硬い音でクリアーに弾く部分が多いので、サウンドホールをすっぽり隠す位置での柔らかい音色やppをもっと取り入れると表現の幅もさらに広がると思う。(第4位)